朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第206回2015/10/29

 幽霊の存在を信じるか、信じないかといわれたら、私は信じない。ただし、幽霊そのものは実態としての存在があるものとは思えない。実態としての存在がないものとしてだったら、あることもいることもあるのだろう。
 幽霊を怖いと思うかというと、幽霊よりも怖いものはいくらもあるので、それほど怖くはない。
 幽霊よりも、評判、特に悪い評判の方が始末に悪い。この家であった事件は、事実だが、その事実とその家自体はつながってはいない。他人の評判が問題なのだ。

 広岡は、そのことをどう考えるのだろうか。