朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第209回2015/11/1

車は小さいが、極めて乗り心地がよかった。

 乗り心地や操縦安定性を車の性能のせいにするが、運転の仕方の方が重要だ。燃費も運転の仕方とどこを走行するかで決まる。
 どんなに優れた自動車でも、一定の速度を維持しないような運転では、乗り心地はたちまち最低になる。


 佳菜子は、だんだんにその素性を明かし始めている。平凡な家庭で順調に育てられたのとは違う感覚が話の端々に表れる。
 それは、広岡も同じだ。それでいながら、他人を思いやる神経は二人とも鋭い。

 作者は、自動車も好きなんだろう。確かに、自動車は、人が指示した通りに反応する。それでいて、コンピューターなどとは違う妙に人間的な反応をする。自動車は、人と共に移動し、人の作業を助ける。それでいて、人間のように余計なことを言う事は一切ない。