朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第216回2015/11/8

雨に濡れないようにという配慮のようだったが、広岡は車を降りると、雨の降る道路に立って、あらためて家を見上げた。

 佳菜子の配慮が伝わる。こういう配慮ができることを大切にしたい。
 一方、その配慮を感じながら、広岡は、雨の降る道に出た。これは、きちんと家を見る方法を身につけているからだ。屋根の構造、壁の材料、見るべき点を知っているのだ。
 その家は、シンプルな構造で大きい。しかも、内部はきれいだ。ここまでは、文句のつけようがない。


 庭は、少しでも人の手が入らないと、たちまちに姿を変えてしまう。雑草が伸び、枝が自然のままに茂り、花がらや落ち葉が、一週間といわず溜まってしまう。