朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第回2015/11/20

 今は、六月の初めのようだ。桜が咲くのは三月中旬だとすると、あと九か月だ。広岡は、それまで生きていられるかどうかを危ぶんでいる。本当にそんなに短い期間しか彼には残されていないのだろうか。


「ファン」

 ファンというのは、不思議なものだ。人気が高まれば、ファンが増える。いったんファンが増えだすと、それは加速度的に増える。
 一方で、限られたファンをもつ人気者もいる。極論すると、一人の選手に一人だけのファンという場合もあるだろう。そして、限られた数のファンの方が、長い期間ファンであり続けることが多いような気がする。
 莫大な数のファンがいても、その選手の成績が下がったり、現役を引退すると、たちまち数が減るのが普通だろう。
 だが、最初から数は少ないが、熱狂的なファンをもつ選手の場合は、成績が下がっても、現役を引退しても数はあまり変わらないこともあるだろう。
 広岡の場合は、限られてはいるが、根強いファンをもつ選手だったと感じる。