朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第230回2015/11/23

佳菜子は、あっさりと提案を撤回した。

 広岡は、佳菜子を信頼している。また、彼女以外にはいろいろなことを相談できる相手がいないということもあるだろう。
 昔の仲間と暮らすという計画を具体化させながら、会長のお嬢さんであった令子に何も相談しないのは少々不自然な気もする。だが、令子に細かなことを相談するのは、気が引けるという気持ちがあるのだろう。
 佳菜子には相談はするが、どんなことでも甘えるということを、広岡はしない。一方、佳菜子の方は広岡のためならなんでも手伝いたいようだが、それを押し付けてはこない。
 佳菜子と広岡の関係には、ほどよい距離を感じる。