朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第44回2015/11/27

そのうち、障子だけがただ薄白く宗助の眼に映るように、部屋の中が暮れて来た。彼はそれでも凝として動かずにいた。

 こういう時間は毎日どこかである。この部分で、宗助の心理を表しているのではあるまい。また、小説の展開の伏線を表しているとも感じない。ただ、日常にこのような時間と空間が存在することを文章にしていると思う。
 近代以降の生活の中には、このような場面が毎日のようにあると思う。昭和時代の人は、このような時間をテレビの前で過ごすようになった。平成時代の人は、また違う過ごし方をしているのだろう。
 どちらにしても、人は一日の中で、何もすることのない短い時間をもつということに気づかされる。日常生活というものは、こういう時間の積み重ねでもあるのだ。