朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第48回2015/12/3

 小六が話す安之助の新発明の話は、いかにも胡散臭いものだ。安之助は、自分の専門知識を生かしているように見えながら、儲けがありそうな新奇なことを追い求めているようだ。
 だが、これを一概に非難することはできない。現代の私たちも、新奇で儲かる事業を起こした人を話題にする。話題にするだけでなく、誰でもいつでも新しく画期的なことを発見したり、始めたいと思っているほどに、世の中を変えるような事業に価値を置いている。
 それに対して、宗助は冷淡ではあるが、否定もしない。はっきりと否定しているのは、御米の方だ。

「坂井さん見たように、御金があって遊んでいるのが一番いいわね」

 これは、またずいぶんと現実的で発展のない意見だ。だが、一つの事業で世の中を変えられることを追うことと、比較すると、確かさでは御米が勝るようだ。