朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第51回2015/12/9

 恋を描いた小説は、もとより豊富にある。成就する恋も、悲劇に終わる恋も様々に描かれている。だが、成就した恋のその後を描いた小説は、それほど多くはないのではないか。
 私にとっては、成就した恋のその後を正面から描いた作品は、『門』だけである。恋を実らせて、夫婦として暮らしている宗助と御米は、恵まれた環境にはいない。金に困っている。弟の面倒を見なければならない。その上に御米の健康に不安がある。
 では、憐れむべき二人の暮らしなのであろうか。私はそうは思わない。
 宗助も御米も互いを信頼して暮らしている。人が病気になるのは、必然でもある。病気になった時に真に心配してくれる人がいるか、いないかかが大事なことだと思う。