朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第258回2015/12/22

 かつて広岡たち四人は、毎朝、ロードワークのためにジムから多摩川に架かるこの橋まで走ってきていた。

 思い出は、美しく懐かしい。この時の四人と今の四人の隔たりは大きい。
 だが、過去の四人は輝かしくて、今の四人はくすんでいるのだろうか。
 過去の四人は、チャンピオンを目指して、ひたむきに生きていた。今の四人は、目指すものがなく、惰性で生きているのだろうか。
 若さは素晴らしく、老いは悲しい。そうだとも言えるし、そう単純なものではないとも言える。
 ひとつだけはっきりとしているのは、広岡と藤原はこれから始まる生活に期待し、若いころと変わらぬ気持ちを持っていることだ。