朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第59回2015/12/3

 宗助は、日々の暮らしに追い立てられて、家と職場の他にはほとんどどこへも行かない。また、新聞を読むが、世間の動きに強い興味を持っているとも見えない。
 だが、それは見かけだけのようだ。織屋の外見や言葉づかいを子細に観察し、その商売の様子、さらにはその暮らしぶりに非常に興味を持っている。それは、この織屋の男から当時の社会構造を洞察しているのではないかと思う。

宗助はつくづくこの織屋の容貌やら態度やら言葉使いやらを観察して、一種気の毒な思いをなした。

 ただ、おもしろがって終わるのではない。また、感情的に同情しているわけでもないのだろう。「一種気の毒な思い」には、宗助がなにかを見通しているように感じられる。