朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第63回2015/12/29

 御米の思いは、宗助に伝わていなかった。
 なぜ、御米はそれを口に出さなかったのであろう。なぜ、宗助は、御米の心情を察することができなかったのであろう。
 この二人にとっても、年月が経てば、話すことができ、察することができるかもしれない。だが、そのときの二人には、亡くした子への思いを互いに理解することは不可能だったと思う。御米と宗助にとってだけではなく、どんな夫婦にとっても、無理なことだったと思う。