朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第289回2016/1/23

 広岡の金銭についての能力は高い。アメリカのホテル業で成功したのだから当然だ。
 持ち物は増やさないし、部屋は絶対に乱雑にしないし、全ての物についての好みは徹底している。
 見方を変えると、こういう人と折り合っていける人は多くはないはずだ。

 藤原は貯えも年金もない。星は貯えだけがある。佐瀬は年金だけがある。この三人は広岡の金をどう思うだろうか。

 世の中の老人の金銭事情が典型的に描かれている。藤原のような場合はいくつになっても働かなければならない。星のような場合は貯えを食いつぶしていくしかない。佐瀬のような場合は年金に頼るしかない。貯えも年金もあるとか、広岡のように貯えも収入もあるというのは、ほんの一握りの人だ。
 働けなくなったら、家族や子供が面倒を見てくれて、恩給が生活に困らないほど出るというのは、もう過去のことだ。