朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第291回2016/1/25

 これで金と飯の目途が立った。なんといっても、暮らしていくにはこの二つをまずは解決しなければならない。


 私は家族がいて、定職があった。だから、金と飯はなんとかなっていた。なんとか自分の力でやっていたと思っていた。
 仕事を辞めてみて、改めて次のことを思い知らされた。
 私の給料は、確かに、生活必需品になり食費になっていた。だが、家計をやり繰りし食事を作っていたのは、私ではなかった。私は、間接的に金と飯を稼いでいただけだった。だから、時間があるようになっても、家計費をどう支払えばよいか、飯をどう作ればよいか、全くわからない。
 仕事がなくなって時間はあるのだから、生活費の始末と、自分の飯は自分で作れ、と言われたら……