朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第79回2016/1/25

 女中のことが出てくると、この作品が百五年前のものであったことを思い出す。書生のことも同じだ。
 女中という職種は、昭和時代にもあった。しかし、それは下級官吏が雇えるようなものではなかった。書生は言葉だけが残っていたが、世間一般では馴染みの薄いものになっていた。
 百五年という年月は、倫理観だけでなく、職種や産業など社会的な構造を大きく変化させていた。そして、変化したものと、変化しないものの双方がこの小説には描かれている。

 小六にとって、この書生のことは悪い話ではなさそうだ。