朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第83回2016/1/29

こう談話の迹を辿れば辿るほど、偶然の度はあまりに甚だしかった。

 不思議な力をもつ小説だ。
 宗助が感じるように、偶然の出来事によって筋が展開する。それなのに、この展開に不自然さを感じない。
 また、御米と安井の関係が相変わらずはっきりとは示されていないのに、なぜか、宗助と安井と御米の相互の心情は了解できる。
 ここに描かれているのは、あくまでも登場人物のことだけであり、明治時代のことだけである。それなのに、この主人公たちの姿を通して、もっと普遍的な人の生き方を描いているという気がしてくる。また、取り上げられているテーマは、明治時代を超えて訴えかけてくる。