朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第324回2016/2/28

 令子についてのアウトラインが一気に描かれた。令子は、いずれこの小説の軸になってくるだろうと思っていたが、ここでこれほど複雑な設定になろうとは驚きだ。
 令子が離婚していたことよりも、日本にいた三人がみな不思議に思うように、彼女がジムを継いだことが、読者としても不思議だ。
 広岡が、日本に戻って来て観たボクシングの試合では、選手は彼女のことを信頼していた。そこからも、彼女が経営面や表向きだけの会長ではないことが察せられる。
 令子と亡き父との関係、そして令子とボクシングとの間には、広岡も知らない何かがありそうだ。