朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第327回2016/3/2

それまで二人のやりとりを黙って聞いていた三人は、一様に広岡の言葉に驚いたような表情を浮かべた。

 それはそうだ。アマチュアボクシングで強さを誇り、プロとしても戦った経験がある若者と、広岡が戦いになるはずがない。広岡がカウンターを決めた時と、今回は条件が全く異なる。三人の表情はもっともだ。

 この三人は、現実の人物に存在が近い。
 藤原は、正義感が強く、思ったことをすぐに行動に移す。そして、感情を抑えることが苦手で、いつもそれで失敗する。
 佐瀬は、心優しく他人の面倒見がよい。そして、他人に気を遣い過ぎて、自分の損得を考えないで、失敗をする。
 星は、頭の回転が速く、冷静さも持っている。そして、自己中心的で、ギャンブルや酒の誘惑に弱く、そのことで人に迷惑をかける。
 三人の登場人物をこのようにタイプ分けできると思う。
 だが、広岡は、世間にいそうなタイプの範疇に入りそうもない。


 若者がグローブを準備してきたことと、広岡の言葉が次の展開のカギか?