朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第101回2016/2/29

 十日間の修行は無駄であったのか。
 若い禅僧は、宗助が求めていた境地にいる人だったと思う。しかし、その悟りの境地に至るには、膨大な時間をかけた修行か、家族や職業を捨てた生活をしなければならないと、理解したであろう。
 宗助が、これ以上の長い日数をかけることはできない。家族と職を捨てることも望まない。
 宗助は、今まで通りの生活を続けながら、安井の影から生じる不安に向かい合うしかないと考えたであろう。その覚悟に行き着いたことに、この十日間の意味があったと感じる。