朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第332回2016/3/7

 広岡の父は、我が子が幼いときから深くかかわることを避けていた。広岡が野球をすることも、高校、大学へと進学するときも無関心、無干渉だったように見える。広岡は、他に進むべき道を見いだせなかったとはいえ、自ら進んでボクシングを始めた。そして、不正なジャッジによって敗れた経験に苦しめられた。
 翔吾は、その全てが逆の立場にあった。父親との関係、ボクシングを始めた経歴、そして、不正なジャッジの経験。それぞれが逆の立場にありながら、この年の離れた二人には、互いに通じる何かがありそうだ。