朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第347回2016/3/22

 ストーリーから離れた感想。
 六十歳後半の男だけが、一軒の家で共同生活をするとどうなるだろうか。
 食事作りが困る。掃除や洗濯が十分にされない。買い物に行くのは困らないが、食材や日用品の買い方が分からない。生活必需品などへの支出に無駄が出る。
 一方でできることもある。庭仕事や外周りの作業ができる。電気製品などの家庭用機器の操作ができる。泥棒などの用心はよい。
 この事情は、現在の若い男であれば、かなり違ってくると思う。つまり、今の六十歳台以上の男は、若い頃は家事以外の仕事を求められてきたからこうなったのであろう。
 老人女性の一人暮らしは多いが、老人男性の一人暮らしも増えている。老年の一人暮らしの場合、女性と男性の違いが際立ってくる。一人暮らしだけでなく、男の共同生活でも、若い頃には必要とされなかった能力が必要になる。そのことが、現代日本の老人男性の弱点だと思う。