30
楽浪の 志賀の唐崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ
ささなみの しがのからさき さきくあれど おおみやびとの ふねまちかねつ


志賀の唐崎は、今も穏やかに水をたたえている。
ここに都があった時代には、宮廷の人々の船が行き交い、それは華やかだった。
今はもうそのにぎわいはない。
ただこの地が、宮廷の人たちの再びの訪れを、ひたすらに待ちわびているかのようだ。


31
楽浪の 志賀の大わだ 淀むとも 昔の人に またも逢はめやも 
ささなみの しがのおおわだ よどむとも むかしのひとに またもあわめやも

志賀の入り江は、今も変わらず波は静かで、その水も昔のままだ。
都があったころここで遊んだ高貴な方々が、今にも現れそうではないか。
いやいや、それも私の妄想。
ささなみのしがはそのままだが、過去の栄光はもう戻らない。

 長歌29の反歌である。 
 滅んだもの、廃墟となった地に引きつけられる人麻呂の心を感じる。枕詞は、現代では理解しづらい表現技法だと思うが、31では「ささなみのしが」という音から、穏やかで明るい雰囲気を感じたので、そのまま表記した。