朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第355回2016/3/30

 藤原の頭の中では、星が話す小さな浜辺の少年と翔吾とが重なったのだろう。だから、言ったのだ。

「教えてやろう」

 私には、小さな浜辺の少年と、アメリカで教えてもらいたかったトレーナーに断られた広岡の若い日の姿が重なる。
 だが、広岡は、日本では真田という最高の指導者を得た若者でもあった。指導者に救われた体験と、望んでも指導を断られた体験、この両面がどうはたらくのだろう。