朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第357回2016/4/1

それはかつて自分にも不足していた重要な何かだ。

 広岡は、すでにそれを発見していると予想したが、違っていた。いったい何だろう?真田が教えた「考える力」だけでもなさそうだし‥‥。
 
 次の広岡の言葉が、私にはズンときた。

「だが、あいつを引き受けて、自分たちはいつまで関わりつづけられるんだろう」

 小説の中でなく、この自問は、最近の私自身のものでもある。何かを新たにはじめようとする際に、考えてしまう。これをはじめて、いつまで続けられるだろう?と。
 老人になると、平均寿命は平均余命とも考えられる。さらに、健康寿命は目の前にきている。
 だが、より真理に近いのは、人間の寿命は年齢にかかわらず明日をも知れない、ということだ。また、健康寿命は個人差が大きいということだ。
 ストーリーを離れても、星の言葉に、私も従おうと思う。