夏目漱石『吾輩は猫である』第11回朝日新聞連載小説2016/4/19

 「吾輩」は、人間について見聞きしたそのままを表現している。猫だから、どの人間に対しても損得を度外視している。あるとすれば、自分に害をするかしないかだけだ。そして、猫だからどう思おうと、思ったことについて褒められたり貶されたりはしない。
 そういう立場を、この小説が評判になったことで、漱石は獲得したのだろう。

 世間の常識にとらわれないで、人間を観察することの面白さを多くの読者が感じた。既存の常識と価値観にとらわれない人間観察の痛快さは、時代を超えて多くの読者の共感を呼んだ。そのような人間観察ができる作家は、稀なのだ。

 人を外側から判断することに、私は慣らされている。だから、教師と聞けば、金儲けに縁はないが、勉強が好きな人となんとなく思う。地味で枯れたような生活を送っている男は、女性への興味が少ないだろうと思う。それが、人間をただ見ているだけで、観察できていない証拠なのだろう。