朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第382回2016/4/27

広岡は、思いがけないほど早くチャンスが訪れたことを翔吾のためというより、藤原たち三人のために喜んだ。

 翔吾本人よりも、広岡自身よりも、三人の喜びの方を考えている。こういう感覚があったから、今までの翔吾へのトレーニングでも積極的になっているという感じがしなかったのだ。
 しかし、「翔吾本人のため」よりも「三人のため」というのは、順序が逆ではないか、それともこの感覚に何かわけがあるのか。

「それでは、翔吾に話してみます。(略)

 この辺もおもしろい。翔吾がもしもこの対戦相手に乗り気にならなかったら断るつもりなのだ。
 これが当たり前のようで、私なぞにはできない。面倒を見ている若い人にとってこれ以上ないというほどのチャンスが来たら、ついつい自分のことのように舞い上がって、勝手に返事をしてしまうだろう。年寄りにはそういう傾向が強い。