夏目漱石『吾輩は猫である』第18回朝日新聞連載小説2016/4/28

 漱石の権威嫌いは徹底している。係累の肩書を自慢する人を批判するだけでなく、揶揄していると感じる。これは、批判よりももっと強い嫌悪感だと感じる。

 
吾輩も先生といわれて満更悪い心持ちもしないから、はいはいと返事をしている。

 ところが、他者の権威好きを揶揄しただけでは終わらない。自己の中にも、潜んでいる権威に弱いところをちゃんと描いている。「先生」という敬意の言葉には、人は弱いのである。
 
 何歳になっても、どんなことでも、自分が褒められるとうれしくなる。最も、安直に褒められ、尊敬される方法は自分にはこんな立派な肩書があると示すことだろう。
 入院している患者同士が、自分はこんなに困難な手術を受けたと、聞かれもしないのに長々としゃべるのもそれに当たるかもしれない。私もやりがちだった。
 自分のことで、もうひとつ感じる。褒められるとうれしくなるのはまだ許せるとしても、貶されると腹が立つのは困ったものだと思う。貶される場合は、たいていは真実をついているだけになお始末が悪いのだ。