夏目漱石『吾輩は猫である』第19回朝日新聞連載小説2016/4/29

 雑煮にひどい目に遭わされたが、黒君にもだいぶ苦労している。ポンポンとまくし立てられ、口では負けない吾輩が閉口している。
 吾輩は、黒君のようにたいして意味のない罵詈雑言を吐かれるのに滅法弱いと見える。
 漱石も、あまり意味もなく延々と言葉のやり取りだけを楽しむような世間話は苦手なのだろう。しかし、漱石は、罵詈雑言や世間話の類を避けてばかりいるかというと、そうでもない気がする。これだけ、テンポよく表現できるということは、注意深く聞いて覚えているということなのだろう。
 漱石は、下品で荒っぽくはあるが、歯切れよく威勢があるとされていた江戸弁にも深く通じていると感じる。