朝日新聞連載小説『吾輩は猫である』夏目漱石第25回2016/5/11

 「トチメンボー」のことが「迷亭」の人をだますカラクリだと分かると、手紙全体が信用のならないものと、「主人」は気づいている。ところが、大半はふざけた嘘ばかりだと思っているのに、自分の胃病に効果があるかもしれないという件になると、思わず興味を引かれている。
 これも、よくある人間の心理だと感じた。
 現代の世の中に溢れている健康によいとされる商品の全てを信用していないのに、自分の苦痛を治してくれそうなもののことを聞かされると、信じたくなってしまう。こういう心理も、胃病に悩む「主人」の心理と重なるのであろう。