朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第438回2016/6/24

 初対面の人への第一印象というのは当てにならないと思っていた。特に職業上では第一印象が偏見につながると取り返しがつかないので、持たないようにしてきた。
 職がなくなると、むしろこの第一印象の方が役に立つ。要するに理由などなくとも、好きな人は好きだし、嫌いな人はなかなかのことでは好きになれない。そして、好きでも嫌いでもない人は、たとえ頻繁に会ってもそのままであることが多い。

 広岡は、この宇佐美なる人に対して、佐瀬が感じたような悪印象は持たなかったことが分かる。この男は、登場の仕方は怪しいし、表情やものの言い方もよい印象を与えない。しかし、話してみると、広岡の気持ちを和ませるものをなにか持っているようだ。
 宇佐美が「来訪者」の本命かもしれない。