朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第444回2016/6/30

 医師資格の女性が動いてくれたのだ。
 宇佐見弁護士の身の軽さ、バイクでの行動力が功を奏した。すぐに動くことは大切なことだ。困っている時こそ、頼りにしたい専門家の動きの速さは救いになる。
 ゴタゴタした騒動にならずに、佳菜子が教団からうまく脱出できたことに安堵した。

 今やバイクというと、中高年の趣味の乗り物になっている。私はバイクには乗れないが、その行動範囲の広さと移動手段としての実用性の高さを知っている。簡単な話、公道上でバイクを追跡するなんていうことは、四輪には不可能だ。それに、人一人を移動させることを条件とすればバイクほど燃費の優れたガソリンエンジン付きの乗り物はない。
 この弁護士は、趣味だけのバイク乗りではなかった。

 佳菜子は、教団の集落から今の生活に入ったのではないことが示されている。教団から脱出した佳菜子に、次は四国の高知でのできごとが待っているのだろう。

 
 佳菜子は現在でも特殊な能力を持っている。
 数奇な生い立ちと特別な能力をもつ女性が、チャンプの家にいることが不思議だ。佳菜子の過去のことを知ってしまっても、広岡と他の四人の彼女への態度は今まで通りだと思う。しかし、佳菜子の能力はこの小説に今後も何らかの影響を及ぼすのではないかと思う。
 たとえば、翔吾と大塚が対戦するとしたら、その勝敗を佳菜子はどう予知するだろうか。