朝日新聞連載小説『吾輩は猫である』夏目漱石第48回2016/6/16

 金田夫人のやり方はあきれたものだ。さらに、それを隠すこともせずに自慢げにベラベラしゃべるのにもあきれる。金の力で人を動かすことに慣れるとこうなるものだ。
 人を雇って他人の家の内を探り、金を払って人の心を確かめようとする。下劣な行為だが、それはよくあることだし、誰でもことの大小を問わなければ陥りがちな心境なのだ。

 金田夫人を品性下劣な憎むべき人間とけなすのは簡単だ。しかし、知人や友人同士の間でも、会社のような組織間でも、国家間でもこういう行為は行われ続けている。こういうことがなくならないのは、大多数の人間が本来持っているものに由来するのであろうか。それとも、近現代の社会構造に由来するのであろうか。