朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第462回2016/7/18

 翔吾の考え方は間違っている。ボクサータイプをいかに打ち合いに持ち込むかを練習するのに、両者がファイタータイプのような打ち合いをしている。
 中西が最初から打ち合ってくるとしたら、翔吾はむしろ大塚のような戦い方をしながら、大塚の弱点を捜さなければならない。
 一番の近道は、中西に過去のスタイルで戦ってもらうことだ。中西が徹底して足を使い、翔吾はそのボクサータイプの中西を打ち合いに持ち込むための戦術を考えることだ。

 一方、中西も間違っている。「いい試合を組んでもらえない」のではどうしようもないが、今のままのファイタータイプでは、世界は取れない。ファイタータイプだとしても、何か変えなければならないだろう。

 翔吾も中西も今のままの接近戦を続けているのでは、「階段」を昇れない。
 それを打開するのは、広岡だ。広岡の言葉が二人を同時に変えると思う。先ずは、中西の戦い方を直すのではないか。