朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第465回2016/7/22

 大塚は、確実にポイントをあげていく。翔吾は、軽いパンチを当てられ続け、徐々にダメージも増してくる。
 大塚の方は、判定勝ちに持ち込むだけでなく、チャンスがあればノックアウトをねらう。
 ダメージを受けて足の止まった翔吾を、大塚が追い詰める。翔吾にとっては、大塚が接近してくるその時しかチャンスは残されていない。
 ロープ際に追い詰められた翔吾が、踏み込む。大塚は、翔吾が踏み込んでアッパーを打ってくることを計算済みだ。ところが、翔吾は踏み込んだだけでなく、体を沈めた。「キッドのキドニー」を打つ気だ。
 
 想像する楽しみだ。

 佐瀬と星は、翔吾に何か策を与えているはずだ。
 
 翔吾は、中西とのスパーリングで何かつかんでいるはずだ。

 ノックアウトや判定ではなく、翔吾のけがで試合が終わるかもしれない。

 中西は、スパーリングの相手というだけの存在ではないはずだ。


 さあ、明日朝刊ではどうなるか。