朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第466回2016/7/23

 第四ラウンド、いよいよ中盤だ。

(略)広岡は、ひやりとするような思いで認めざるを得なかった。

 広岡がこう認めるということは、このままでは翔吾に勝ち目はない。佐瀬もアドバイスすべき手がないのだ。
 大塚は体力を温存している。ポイントも確実に上げている。さらに、ストレートのカウンターを当てた。
 翔吾は徐々に体力を奪われていく。ポイントは上げられない。ジャブやストレートを打たれ続けている。翔吾が勝つには、踏み込んで打つアッパーは使えないので、キッドのキドニーか、クロスカウンターしか残っていない。
 しかし、そのいずれも危険を伴うものだ。

 もう一つ思い出す。中西は、過去の試合で圧倒的な不利を逆転していた。