朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第467回2016/7/24

(略)完璧なアウト・ボクシングが繰り広げられている。

 大塚の戦い方は、アマチュアの試合ならこれでいい。これが、理想的な戦い方だ。しかし、プロの世界ではこのままではダメだろう。人気が出ないだろうし、「完璧なアウト・ボクシング」の判定で世界チャンピオンに勝つという試合運びは考えられない。
 どこかで、アウト・ボクシングから抜け出さなければならない。翔吾とのこの試合でもそれは必要だ。
 そのチャンスがやってきた。

(略)今度は前方に鞭のように体をしならせて右のストレートを打ち込んだ。

 ストレートが当たっただけならいいが、大塚と翔吾の体はきわめて近いのではないか?