朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第475回2016/8/1

 なぜ、広岡は、自分を見捨てたトレーナーのペドロ・サンチェスの故郷であるキューバを見ようと思い立ったのかがわかりそうだ。

一度でいいからキューバを見てみたかった。もう自分の残り時間は少ないのかもしれない。(第21回)

 ボクシングを諦めてかろうじて生活していた広岡に、元トレナーはどんな影響を与えたのか?


 佳菜子は、翔吾の眼の異常を感じていた。星と佐瀬が感じた彼女の「あの明るさの陰にどこか暗いものがある」は、そこに理由があるのだろう。


 小説冒頭の広岡の行動、翔吾について広岡が今までに感じてきた不幸や不安の予感、そしてこの時期に翔吾と二人きりになる佳菜子の意図、すべてが緻密に関連づいてきそうだ。

――これが翔吾を不幸にすることにはならないだろうか‥‥。(第419回)