朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第482回2016/8/8

 治っていなかった。

 これで、かえってほっとした。
 もしも、治っていて、佳菜子に不思議な治癒能力があるということになったら、その後の問題が大き過ぎる。


 佳菜子は、特別な能力がもつわけでも、奇跡を起こす力をもっているのでもなかった。
 それが、今の佳菜子だ。

 今までの佳菜子は、どうなのか。
 彼女がいなければ、「白い家」を手に入れられなかった。彼女がいたから、翔吾と広岡たちの交流が生まれた。そして、チャンプの家は彼女の存在なしでは何かが欠けたものになる。


 佳菜子が翔吾のことを強く思い、広岡と三人は翔吾と佳菜子のことを強く思っている。治せる治せないではなくて、そのことがよくわかる。