朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第491回2016/8/17

「中止にしてもいいのよ」

 令子のこの言葉が、冷静に翔吾のことを考えている結論だ。
 以前の藤原、佐瀬、星の間で交わされた議論「見えなくなった眼で生きていかなければならないんだぞ」にも結論は出ていない。
 スパーリングも十分にできない状態で、不安を抱えながらどうやって世界チャンピオンに挑戦しようというのか?
 でも、冷静で理に適った考えがいつも最良というわけではないのだろう。


 桜が咲き始めた土手を歩く広岡と令子の話は、過去のことか、現在と将来のことか。それとも何も言わずに、時を過ごすのか。