朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第495回2016/8/21

 藤原と佐瀬と星は、食事や日常生活で広岡に頼っている面が多い。もちろん、住居の費用は広岡任せだ。それでいながら、三人それぞれにけっこう好きなように暮らしている。
 広岡の病気のことに気づきながらも、早く検査や治療を始めるように勧めなかった。それどころか、翔吾のトレーニングで広岡の体に気遣うこともしていない。
 それは、佳菜子と翔吾も似たようなものだ。
 では、チャンプの家の住人が、広岡に家賃を払うと言い出したらどうだろうか。また、広岡に早く病院へ行き検査を受けるように強引に勧めたらどうだろうか。
 世話になっている人に恩を返すこと、大切に思う人を気遣うこと、それは一様ではないと考えさせられた。

 前回では、広岡と翔吾の心の交流があった。
 今回は、広岡と藤原と佐瀬と星と翔吾の心が、神代楡のテーブルの前でつながっている。
 広岡は、今、満ち足りていると思う。