朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第15回2016/9/16

 母親の感覚は、「病的な」ほど個性的だ。だが、理有は「こんな気持ちの悪いぬいぐるみ」と思っていながら、ベスティのぬいぐるみに引きつけられてこの喫茶店に入っている。
 理有がボブだけを続ける感覚と、母親の「シンプルな物を好む感覚」にはつながるものがありそうだ。
 杏の方には、母親と共通する部分がまだ見えてこない。

ベスティというのはドイツ語で獣という意味なのだと母は私たちに教えた。

 姉妹に、狼のぬいぐるみを見せながら話す母の姿が浮かぶ。平凡で和やかな母と娘二人のイメージとはかけ離れている。