朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第19回2016/9/20

 ためらっていたのは、あの喫茶店へ行くか行かないかではなく、店員の若い男と会うか会わないかだった。
 喫茶店の彼は、ぬいぐるみのことでは独特の感性を見せていた。でも、理有の呼び出しに応じた彼は、前の印象とは違う。選んだのが焼肉だったことも、そこでの話題も平凡な感じだ。それに、理有の反応にちっとも気づいていないようだ。
 彼は、デートのつもりで来ているようだが、理有が彼を呼び出したのには何か理由があるのではないか?

 理有は、母が好きだったぬいぐるみを気味悪く感じていた。それは、あのぬいぐるみそのものが嫌なのか。それとも、あのぬいぐるみを病的に愛した母をおぞましく思ったのか。そこは、まだわからない。