朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第43回2016/10/15

 杏が、理有をどうとらえているかは難解だ。

(略)理有ちゃんの腕は、私を安心させ、ぼそぼそに乾いたスポンジに水が染み込んでいくように満ち足りていくのを感じた。(6回)

理有ちゃんが救急車を呼ぶなと言った瞬間から、私の中で理有ちゃんのことが分からないという不安と恐怖が膨らみ続けていた。(39回)

(略)自殺を幇助した姉(略)(42回)

 杏は、姉のことを誰よりも頼りにして大切な人と思っているのは確かだ。それと、同時に母の死については、39、42回のようにもとらえている。

 姉理有のことにストーリーが移った。
 半年の留学を終えても、理有の心は安定していない。彼女の夢が、心の暗部を示しているように思う。
 理有にとって、頼りにすべき人はパパであったはずだ。また、理有の気持ちを察してくれる大人は広岡さんであったはずだ。ところが、この二人が、夢の中で理有を不快にさせる張本人になっている。
 母の死について、杏の不安や恐怖はまったく拭われていない。
 理有は、以前と変わらず冷静に行動しているように見えるが、母の死については杏以上にまだ混乱しているのではないか。