朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第55回2016/10/27

 作者は、理有よりも杏の方をずっと身勝手で、感情的な人物にしている。
 ところが、杏の視点から小説上の客観的な事実を伝えて来る。ママの死の顛末も杏の回想でしか書かれていない。この回では、杏の思ったことから、姉妹と両親の関係を客観的に知ることができる。

 ママが死んだ後、半年くらいおじいちゃんの家にお世話になって、ここに引っ越してから一年半ほどが経つ。ママと住んでいた前の家は3LDKで、この家は2LDKだ。この家にもう一つ、ママの部屋がある形で、ママの部屋はリビングと直接つながっていた。パパがいなくなり、ママがいなくなり、理有ちゃんがいなくなり、理有ちゃんが戻ってきた。

 
もしも、理有がこの夜帰って来なかったら、杏はどう思うだろうか。今は、姉に男ができたとおもしろがっているようだが、実際にそうなって姉が家を空けたら、不安でどうしようもなくなるかもしれない。