朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第66回2016/11/7 №2
 
 この小説の視点が気になる。
 今のところ、杏だけが、本人の視点で自己の内面が表現されている。
 理有にも、本人の視点で内面が表現されている部分があるが、杏に比べると少ない。
 そして、理有は杏を、杏は理有を、互いの心理を互いの視点で表現している。

 晴臣と光也と広岡のそれぞれの心の動きは、本人の視点からはほとんど書かれていない。この三人の感情や心の動きについては、理有と杏の視点から描かれているだけだと思う。

 さらに、次の表現も興味深い。

空っぽの頭で何も考えられないまま、窓の外を見つめる。二時間前まで見ていた風景と、今見ている風景が全く違うような気がした。透き通った黒いフィルターがかかったように、いつもの世界が、地獄のように見える。いつもの世界が、重々しく、何の希望もない、荒地(あれち)に見える。別世界に来た新参者の気持ちで、私は座席に頭を預けたまま渋谷の街を見つめていた。

 杏の気持ちの表現だ。だが、杏だけの視点とは言い切れないものを感じる。「別世界に来た新参者の気持ちで」の部分には、作者の視点を垣間見ることができる。それだけに、この部分は重要なのだと感じる。