朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第70回2016/11/11

 晴臣はますます調子づいて、しゃべりまくっている。
 
 くだらない奴だ。それでいながらビールで乾杯ときた。これが、今の男子高校生の典型なのだ。
 
 私の高校生のころは、どうでもいい話も多かったが、政治を語ることもあり、将来について議論することもあった。
 そして、当時の権力者を批判し、自分の進むべき将来について議論した世代によってつくられた国が、現在のわが国なのだ。私たちの国は現在こうなっている。

 現代の高校生の思考を伝えてくれる作者に感謝。

 ところで、晴臣は嬉しいだけではしゃいでいるのではないという気がしてきた。
 杏は、母のことを思い出し、パニックになった。理有は、光也の中に母を感じて、逃げ出した。杏、理有、光也の三人は、中城ユリカを挟んで非常に微妙なバランスにある。
 晴臣は、そういう微妙な三人のつながりを無意識のうちに感じ取っているのかもしれない。あるいは、理有と光也から、自分と杏のことについて問われることを恐れているのかもしれない。