朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第95回2016/12/7

 杏の幼い頃のエピソードと、次の表現がピッタリと合うとは思えない。

つまり杏は、時間が経つと人は別物に変化する、そこに連続性はない、と考えているのだ。

また、上のような杏の思考と、次の表現のつながりにも無理があると思う。

人が感動するものに感動しない。あらゆる因果関係に無頓着。どこまでいっても思考回路がブツ切れなのだ。

 登場人物の言動と、登場人物の思考の結びつきがしっくりこない。


 ついでなので、今まででしっくり来なかった所を思い出しておく。杏が、パパの言葉を思い出す場面だった。(75回)

好きっていう言葉が示しているのは、そのものの本質を知らないってことなんだよ。例えば俺は政治学を研究しているけど、政治学が好きではない。政治学が好きなんです、という奴がいたとしたら、そいつは政治学について何も知らないと表明しているようなものだ。(75回)

 幼い頃の杏の「ねえ、パパこれ好き?」との問いに対するパパの言葉だ。パパの思考としては、理解できるし「好き」という心理を表現していると思う。しかし、設定場面を考えると妙な感じを受ける。小説の中に、唐突に哲学が持ち込まれたような‥‥
 杏についての、理有のとらえ方も似たような感じを受ける。
 こういうねじれた感覚、歪んだ魅力をもつ言語表現が挿絵にも表れている。