朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第100回2016/12/13

 私は、普段はこの語を使わないし、自分の状態や心境をこの語で表したことがない。ところが、この作品を読み継いでいると、ついこの語が出て来てしまう。知人との会話でうっかりと使ってしまったら、知人にぎょとした顔をされた。

この好意だけが晴臣という地獄から這(は)い出すための命綱だと思うと、

 その語は、「地獄」だ。
 杏は、晴臣とよりを戻しても、広岡とくっついても「地獄」だと感じる。

 もうひとつ気になった表現がある。

そう言う広岡さんのゲスさに一瞬、強烈に胸が動かされる。

 
広岡のこの問いは、「ゲス」という語でしか表せない。杏の心が、「一瞬」反応している所に、彼女の今の状態が表れている。
 
 杏は、理有にも、晴臣にも、広岡にも、誰にも依存しないで進まなければ、「地獄」から抜け出せないと思う。