朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第107回2016/12/20

 杏は、自分のマンションに戻っただけでなく、理有への反発を弱めているようだ。同時に、広岡さんへの思いがすでに冷めてきているような気配もある。

 杏のことを愛しているのは、祖父母であり、理有であり、晴臣だ。そして、それぞれにその愛が届かない。
 祖父母は、杏とは住む世界が違い過ぎる。晴臣は、杏のために自分の行動をコントロールできないので、愛しているのに行動では裏切ってしまう。
 理有と杏は、母の存在があってはじめて成立する関係だと思う。だから、母が死んだ今は、互いが変わらなければ、互いの愛は届かないと思う。
 
 杏には、若い生命力が感じられない。強い寂しさだけを感じる。理有には、杏よりももっと強い寂しさと絶望感を感じる。

 この作品の登場人物に、祖父母以外では年齢や経験を感じない。父は理有といつも対等に話している。広岡は、杏や理有と比べれば、大人の狡さや賢さをもっているはずだが、それは出てきていない。杏と晴臣も今の若者の行動面の特徴が描かれているだけで、成長過程にある心身は描かれていないように思う。