朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第111回2016/12/24

 理有の言うように、母の死が心筋梗塞だったら、杏の記憶改ざんは、異常で病的なものだ。理有は、杏の思考をおかしいと批判はしているが、杏に病的なところがあるとは今まで思っていない。
 母の死によって、杏の精神が異常をきたしたとも考えられる。だが、杏の独特な感性は、母の死にかかわらずに幼いことからのものであったと描かれていた。また、杏のパニック発作も、広岡さんの美容室で初めて起こったとされている。
 
 理有が記憶を改ざんしたとするのは、可能性はある。

 だが、それよりも可能性が高いのは、理有が意図的に嘘をついている場合だと思う。理有が、嘘をつくとしたら、杏と別の人生を生きようとするためだろう。母の死について、杏と秘密を共有したままでは、姉妹は離れられない。 
 理有が妹と根底から別れようとするなら、母の死についての二人の秘密をなんらかの方法で処理しなければならないのだろう。