朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第115回2016/12/28 追加

 理有が考えていることでよく理解できる部分とまだ理解できない部分があった。理解できる部分をあげる。

ママの世界にあったのは、小説が完成していない世界と、小説が完成した世界だ。小説を完成させてから数週間は小説が完成した世界、それを過ぎるとまた新しい小説を書き始め、小説の完成していない世界に没頭し、小説の成就だけを目指した。

 ママユリカについては、ここに表現されていることがよくわかる。ユリカは、妻であり母であるよりも、作家であったのだと思う。

私はつまり、ママが否定していたある種の感情を、ママに対して強烈に持ち続けたのだ。それは他人への激しい執着であり、愛情であり、相手に幸せになってもらいたいと願う気持ちだ。

 これは、理有についてだけでなく、杏にも感じる。理有と杏は、行動は対極だが、ここに表現されている気持ちは同一だと感じてきた。姉妹の気持ちの根底が今までで最もよく表出されていると思う。
 理有も杏も、他人を受け入れることに臆病で、慎重なのに、気持ちの底に、「他人への激しい執着」と「愛情」を感じる。